● 標高二千メートルの甚之助谷地すべり対策
今夜は『山岳信仰と教会堂』(2010.10.08)で掲載した一首のバック・グラウンドの話。
石川と岐阜の県境にそびえる白山。その標高2千メートルの辺境で、人と自然の闘いを象徴す
る工事が進んでいる。日本最大級の土塊量を誇る甚之助谷の地すべりを抑制――甚之助谷地す
べりは、標高1,200~2,600メートルに位置する高山地での大規模地すべり。現在でも毎年、特
に融雪期に最も早いブロックでは10~15センチメートル/年の大きな移動を観測。土塊総量は
3,800万立方メートル超と想定され、流動化した場合には、下流域へ甚大な被害を及ぼす恐れ
があり。地すべり地区で、地下水を取り除き、地すべり土塊の急激な移動する地すべりの挙動
を監視するために、国土交通省北陸地方整備局が2008年度から実施する排水工事(飛島建設が
施工)。甚之助谷の地すべり防止区域の標高は1200~2600メートルと高い。高山地の地すべり
は全国でも珍しい。現在、排水トンネル工事は主に甚之助谷の左岸ブロックの安定を図るため
のもの。同ブロックの地すべりを助長するのは、隣の万才谷(まんざいだに)から岩盤を通し
浸透する流水だというメカニズムが分かってきた。そこで、万才谷の上流部から、甚之助谷の
反対側に位置する赤谷へ水を流すために、387メートルの排水トンネルを掘っている。
従って、この工事は過酷だとこの記事は掲載している。 この現場に工事用道路は存在しない。ア
クセス手段は自らの足を使った登山のみ。付近の市街地から現場へ向かおうものならば、工事
関係者専用の登山口まで車で約40分。それから登山で約2時間掛かる。どれほどの場所にあるの
か分かるだろう。毎日、麓から通うのはほぼ不可能だ。そのため工事関係者は標高二千メート
ルの現場最前線に構えた南竜事務所に泊まり込みで工事に携わっているが、現場はそこにはな
く、事務所から排水トンネルの飲み口と吐き口の現場へは、さらに30分以上の登山による「通
勤」のみ(ケンプラッツ「白山・甚之助谷地すべり対策(前編) 」 2014.10.17)。
● 集約するリチウムイオン電池部材市場
三井造船がリチウムイオンバッテリー(LIB)部材から撤退を決めたことで、LIB市場を
めぐり企業の優勝劣敗が鮮明になってきた。既に三菱ケミカルホールディングス(HD)が正
極材料の製造を停止。一方、住友金属鉱山は正極材の能力増強を予定する。大口受注を獲得す
る一部を除き、収益確保に苦しむ企業は少なくない。正極材の製造から撤退を決めた三菱ケミ
カルHDは、EVの需要拡大が遅れたことから既に2012年末に新規投資を凍結していた。
同じくLIBの主要部材であるセパレーターでは車載用に加えてスマートフォンなどの民生分
野を取り込むため、中国に販売拠点を設置するなど戦略を一新した。宇部興産や戸田工業とい
ったLIB材料大手もEV普及の遅れもあって収益悪化に苦しんでいるという。(2014.10.23
日刊工業新聞)
それによると、一方で住友金属鉱山は正極材のニッケル酸リチウムの増産などに総額2百億円
を投じる。主な供給先はパナソニックで、米EVメーカーのテスラモーターズといった大口需
要家をにらむ。負極材最大手の日立化成は日産自動車のEV「リーフ」の販売復調により、一
時期の需要低迷から盛り返しつつあるなど、各社で明暗が分かれている。 当初から日本企業
は価格競争の激しい民生用途よりも、耐久性や安全面などで差別化しやすい車載用途を開拓し
てきた。ただHVは1台当たりのLIB搭載量が少なく、市場規模は限られ、しかも「価格要
求は厳しい」(森田美智男JNC社長)と明かす。
デジタル革命を担う携帯電子機器の発展にともない、それに用いられる二次電池の高出力長寿
命等の高機能化が望まれ、そのため二次電池用の正極活物質に関しても粉体特性の解明とその
製造技術の向上が求められている。例えば、ハイブリッド自動車用二次電池に代表される大型
二次電池の主力製品としては、安全性と出力のバランスの良いニッケル水素二次電池が使用さ
れているが、そのほかに、小型軽量であるリチウムイオン二次電池がニッケル水素二次電池を
代替品として注目されていた。その実用化のため、まず、リチウムイオン二次電池に用いる正
極活物質の高出力化が課題として挙げられ、その解決が求められた。この課題に関しては、こ
こ数年の材料開発によりおおよその目処がたち、非水系二次電池であるリチウムイオン二次電
池を搭載したハイブリッド自動車が市場で販売されている。しかしながら、このようなリチウ
ムイオン二次電池の正極材料の新たな課題として、実用に際して起る過充電又は高温環境下に
おいて安全性のより一層の向上が挙げられている。すなわち、これを解決することで、リチウ
ムイオン二次電池の保護回路の簡素化及び小型化を実現することができ、ハイブリッド自動車
用二次電池としてその有用性が高まる。
● 特開2006-004689
非水系二次電池用の正極活物質、その製造方法及びそれを用いた非水系二次電池
非水系二次電池の正極活物質としては、一般に、リチウムイオンを可逆的に挿入及び脱離する
ことができる層状構造を有するリチウム複合酸化物が用いられている。この中で、大型二次電
池用の正極活物質としては、低価格と高容量化を実現することができるとともに、充放電時の
電圧のプラトー領域が少ないため電圧制御が比較的容易であることから、主成分としてニッケ
ルを含むリチウム複合酸化物であるニッケル酸リチウムが最有力とされているが、ニッケル酸
リチウムには、他のリチウム複合酸化物、例えばコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムと
比べて加熱に際して熱的安定性が劣るという問題点を有している。そのため、非水系二次電池
の正極活物質としてニッケル酸リチウムを用いる際には、出力は確保することができるが安全
性が低下するので、保護回路の強化が必要不可欠であるとされ、過充電と高温での保存に、ニ
ッケル酸リチウムの分解による酸素放出を発端とする発熱現象により有機電解液の分解とそれ
に伴うガス発生が連鎖的に起こり、破裂又は発火の危険性があるため、ニッケル酸リチウムの
正極活物質としての熱的安定性の確保が求められ、この解決策として以下の提案がなされてき
た。
(1)ニッケル酸リチウムの添加元素にバナジウムまたは、インジウムを用いる。
(2)バナジウムまたは、インジウムを含むニッケル酸リチウムの製造方法に、これらの元素
をニッケル酸リチウム中に固溶させる方法を用いる。
(3)または、ニッケル酸リチウム粒子中に分散させる方法を用いる。
(4)さらに、バナジウムまたは、インジウムの酸化物等の無機塩を、球状又は楕円球状の二
次粒子形状のニッケル無機塩とリチウム無機塩と混合し焼成し反応させる方法を用いる。
(2)は、ニッケルの一部をバナジウムまたは、インジウムと置き換えるようにして共沈させ
て原子レベルで粒子内拡散を実現したニッケル含有を原料として用いて、リチウム無機塩と反
応させることにより、バナジウムまたは、インジウムが固溶したニッケル酸リチウム粉末を製
造すが、この方法で得られたバナジウムまたは、インジウムが固溶したニッケル酸リチウムは、
正極活物質としての熱的安定性を向上させることができるが、非常に多くの固溶量を要し電池
容量が大きく低下する。
また(3)は、得られるニッケル酸リチウムに含まれるリチウム以外の金属の無機塩をボール
ミル等で粉砕混合した後、リチウム無機塩と混合し焼成し、ニッケル酸リチウムの二次粒子内
部にバナジウム含有リチウム複合酸化物または、インジウム含有リチウム複合酸化物を分散さ
せニッケル酸リチウム粉末を製造するが、この方法で得られた粉末は、嵩密度が非常に低くな
り、単位体積当たりの電池容量を示す体積エネルギー密度が大幅に低下し、多量の微粉を含む
ので発熱又は発火を起こし易い。
さらに(4)は、バナジウムまたは、インジウムの固相内拡散速度が極めて遅いので、ニッケ
ル酸リチウム粒子表面にバナジウムまたは、インジウムのリチウム複合酸化物が被膜状に存在
するので、熱的安定性は向上するものの、表面に存在する被膜が充放電時に、リチウムイオン
の挿入脱離を阻害し、内部抵抗が高くなり、電池容量とサイクル寿命が低下する。
この新規考案――ニッケル酸リチウム粒子にバナジウムまたは、インジウムを添加した正極活
物質は、特定の組成式で表される層状構造のニッケル酸リチウムの粒子内部に、添加元素がリ
チウム複合酸化物を形成して均一に分散し、調製粉末を非水系二次電池用の正極活物質として
用いたところ、二次電池の過充電と高温保存時の熱的安定性を向上させる一方、電池容量、サ
イクル寿命及び出力の低下を抑えることができ、特定の工程に基づいて製造された球状または、
楕円球状のニッケル含有無機塩粉末とリチウム無機塩とを混合し焼成する方法で、正極活物質
を効率的に製造できる――製造条件は以下の通り。
(1)組成式:LiNi1-aMaO2 ただし、式中、Mは、Mg、Ca、Ti、Mn、Cr、Fe、
Ni、Co、Cu、Zn、Mo、Ag、W、B、Al、Ga、Nb、Sn、Pb、Sr、
Sb又はPから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5である。
(2)添加元素の添加量は(V又はIn)/(Liを除く全金属元素)原子比で、0.002~
0.1である。
(3)タップ密度(できるだけ詰め込んだ時の嵩密度)が2.0g/mL以上である。
(4)(イ)ニッケル無機塩に、バナジウム又はインジウムの無機塩と、リチウムを除く正極
活物質の成分である全金属元素の無機塩とを所定比率で混合した後、湿式超微粉砕してニ
ッケル含有無機塩スラリーを調製する。(ロ)上記ニッケル含有無機塩スラリーを噴霧乾
燥に付し、球状又は楕円球状のニッケル含有無機塩粉末を調製する。(ハ)上記ニッケル
含有無機塩粉末とリチウム無機塩とを混合し焼成する、以上の3工程を含む水系二次電池
用の正極活物質の製造方法。
● 特開2014-146441
ニッケル複合水酸化物粒子とその製造方法、非水系電解質二次電池用正極活物質とその
製造方法、および非水系電解質二次電池
続いて、この新規考案は、下記の組成式(1)をもつ、リチウムニッケル複合酸化物の非水電
解質二次電池用の正極活物質で、リチウムニッケル複合酸化物の炭素含有量が0.08質量%
以下である。この正極活物質は、焼成粉末をスラリー化し、10~40℃の温度範囲、スラリ
ーの液体部の電気伝導度を30~60mS/cmに制御して水洗した後、濾過、乾燥すること
で、高容量かつ熱安定性に優れたリチウムニッケル複合酸化物の非水電解質二次電池用の正極
活物質とその工業的生産に適した製造方法と安全性の高い非水電解質二次電池を提供する。
LibNi1-aM1aO2 ・・・(1)式
ただし、式中、M1は、Ni以外の遷移金属元素、2族元素、又は13族元素から選ばれる少なくとも1種
の元素を示し、aは、0.01≦a≦0.5、bは、0.85≦b≦1.05である
厳しい開発競争現場(リスクは常に現場持ち)をこのように俯瞰しているのだが、青色発光ダ
イオード開発の中村修二米加工大教授のコメントを思い浮かべたりしているのだが、こういう
現実を踏まえ科学技術が進展していくのだが、厳しい反面、ある意味実に面白い興味深い光景
を目の当たりにしているわけだ。
● エコな話シリーズ:年間運転効率を大幅に向上するビル用マルチエアコン
――新制御技術で年間41%の消費電力量削減を達成――
産業技術総合研究所(NEDO)とダイキン工業(株)は、負荷に合わせて冷媒温度をコントロー
ルする新しい冷媒制御技術と、停止時の待機電力を削減する制御技術を開発、従来機に比べ年
間で41%の消費電力量削減を達成した。これら新制御技術をベースにダイキン工業(株)は、
新型圧縮機に関する独自開発の技術を組み合わせることで、年間運転効率を大幅に向上したビ
ル用マルチエアコンを2015年3月2日より販売販売していくとしている。これは面白い!
【システムの特徴】
(1) 圧縮漏れ・ロスを極小化した新型スクロール圧縮機を搭載
(2) 必要負荷をリアルタイムに把握し、圧縮機回転数を抑える新制御を搭載
(3) 待機電力を約15%削減し、運転していないときも省エネ
(4) デシカント空調機との組合せにより、快適性の維持と大幅な省エネを実現
※ダイキン工業(株)製 DESICAをZEB向けに改良したもの