Quantcast
Channel: 極東極楽 ごくとうごくらく
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2435

百薬の酒のドン・ジョバンニ

$
0
0

 

    

     61  至誠天に通ず  /  風沢中孚(ふうたくちゅうふ)    

                                  

       ※ 中孚(ちゅうふ)とは、心に誠実さが満ち溢れていること。孚という
        の字は爪と子組み合わせで、原意は、親鳥が卵を暖めて孵化すること
        である。親鳥の愛情が卵の生命を喚び起こすように、誠意は人の心を
        感動させる。至誠天に通ず、誠意をもって進んでゆけば危難を克服し
        て志を成就できるのである。また上下の卦が口づけしている形でもあ
        り、もごころによって結ばれた二人を象徴する卦である。

 

   Mar. 27, 2017

● アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の変異は骨粗鬆症のリスク

ALDH2の変異は日本人の半数近い人にみられ、お酒に弱い原因となっている。この変異型Aldh2
(Aldh2*2)をもつ遺伝子改変マウスは野生型(WT)に比べてX線写真で骨のX線透過性が亢進し、骨密
度が低下していることが分かるという。彼女はお酒に弱く、骨粗鬆症だ。ところで、お酒が弱い女性
は、年を取ると骨が折れやすくなることが、慶応大などの研究チームの調査でわかった。女性は閉経
後に骨粗鬆(そしょう)症になりやすいが、アルコールの分解にかかわる遺伝子の働きが弱いとさら
にもろくなる可能性があるという。27日付の英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」で発表
している。同大医学部の宮本健史・特任准教授(整形外科)らは、アルコールを分解する時に働く酵
素をつくる遺伝子ALDH2 に着目。この遺伝子の働きが生まれつき弱い人は悪酔いの原因となるアセ
トアルデヒドをうまく分解できず、酒に弱くなる。中高年の女性で大腿骨骨折した92人と骨折して
いない48人の遺伝子を調べて比較し。骨折した人の中で、この遺伝子の働きが弱い人は58%だっ
たが、骨折していない人では35%だった。年齢などの影響を除いて比べると、遺伝子の働きが弱い
人の骨折リスクは、ない人の2、3倍高かった。同チームはマウスの細胞でも実験。骨を作る骨芽細
胞にアセトアルデヒドを加えると働きが弱まったが、ビタミンEを補うと機能が回復した。酒に弱い
体質の人が過剰な飲酒をすると、アセトアルデヒドがうまく分解できずに骨がもろくなる可能性があ
るとみられる。お酒に強いか弱いかは生まれつきで変えられない。だが、骨折のリスクをあらかじめ
自覚し、ビタミンEの適度な摂取で予防できる可能性があると関係者は話している。わたしの兄弟も
家系も酒はたしなめる程度で子供たちも飲まない、飲めない。とするとなぜ、わたしだけ飲めるのか
?わかっていることは、若い頃よく酒を飲み、いつのまにか大酒はないが、後天的に飲めるようにな
ったことだ。彼女はわたしと同じ、ビタミンEを度を超えて(?)摂取すると気分が悪くなる体質。
そこで、少量でも良いから飲酒を進め、アルコールを分解する時に働く酵素をつくるこの変異型Aldh2
(Aldh2*2)   の改変というか、耐性を強めるよう進めている。かくして、百薬の長である酒の効用を認めさせる
戦術の一歩を踏み出すことになる。

 
Titol:A missense single nucleotide polymorphism in the ALDH2 gene, rs671, is associated with hip fracture.

 

 

 Mar. 27,2017
※ Titol:Influenza A virus hemagglutinin and neuraminidase act as novel motile machinery.

鍵語:インフルエンザウイルス/感染/行動解析

● インフルウイルスの転がり進入 感染予防に道

 今月27日、インフルエンザウイルスは、細胞の上をころころと動き回って「侵入口」を探している
ことが、川崎医大の研究で分かった。動く能力を封じると、感染力が落ちる。細胞に入り込まないと
子孫が残せないウイルスが、あの手この手で獲得した生き残り戦略?と見られるという英国の電子科
学誌「サイエンティフィックリポーツ」に掲載される。川崎医大の堺立也講師(微生物学)らは、細
胞表面の環境を再現したガラス板の上で、インフルエンザウイルスの動きを詳細に観察。すると、う
ろうろしたり、つーっと滑ったりしている。ウイルス表面にある2種類のたんぱく質が、細胞表面の
物質と緩くつながったり、離れたりすることで、転がるような動きを作り出している。このように、
動き回ることで、細胞の侵入口を見つける機会が増える。動きに関わるたんぱく質を働かなくさせる
と、感染能力は3割程度に落ちる。ウイルスの振るまいが分かったことで、新たな治療戦略につなが
可能性が浮上した。これは面白い発見だ。

 Mar. 28, 2017

    
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

    5.息もこときれ、手足も冷たい

  地面に開いた穴? 四角いマンホール? まさか。飛鳥時代に下水道かおるわけはない。そし
 て果たし合いが行われているのは屋外であり、何もない空き地のようなところだ。背景に描かれ
 ているのは、枝を低く落とした松の木だけだ。なぜそんなところの地面に、蓋つきの穴が開いて
 いるのだろう? 筋が通らない。

 Mar. 8, 622

  そしてそこから首を突き出している男もまたずいぶん奇怪だった。彼は曲がった茄子のような、
 異様に細い頭をしていた。そしてその頭巾が黒い祭だらけで、髪は長くもつれていた。浮浪者
 のようにも、世を捨てた隠者のようにも見える。痴呆のように見えなくもない。しかしその眼光
 は驚くほど鋭く、洞察のようなものさえうかがえる。とはいえ、その洞察は知性を通して穫得さ
 れたものではなく、ある種の逸脱が――ひょっとしたら狂気のようなものが――たまたまもたら
 したもののように見える。細かい服装まではわからない。私か目にすることができたのは、首か
 ら上の姿だけだったから。彼もまたその果たし合いを見守っている。しかしその成り行きにとく
 に驚いてはいないようだ。むしろそれを起こるべくして起こったこととして、純粋に傍観してい
 るように見える。あるいはその出来事の細部をいちおう念のために確認している、という風にも
 見える。娘も召使いも、背後にいるその顔の長い男の存在には気がついていない。彼らのまなざ
 しは激しい果たし合いに釘付けになっている。誰も後ろを振り返ったりはしない。

  この人物はいったい何ものなのか? 何のために彼はこうして古代の地中に潜んでいるのだろ
 う? 雨田典彦はどのような目的をもって、この得体の知れない奇怪な男の姿を、釣り合いの取
 れた構図を無理に崩すようなかたちで、わざわざ画面の端に描き込んだりしたのだろう?
  そしてだいたい、この作品になぜ『騎士団長殺し』というタイトルがつけられたのだろう?

 たしかにこの絵の中では、身分の高そうな人物が剣で殺害されている。しかし古代の衣裳をまと
 った老人の姿は、どのように見ても「騎士団長」という呼び名には相応しくない。「騎士団長」
 という肩書きは明らかにヨーロッパ中世あるいは近世のものだ。日本の歴史にはそんな役職は存
 在しない。それでも雨田典彦はあえて『騎士団長殺し』という、不思議な響きのタイトルをこの
 作品につけた。そこには何かの理由かおるはずだ。

  しかし「騎士団長」という言葉には、私の記憶を激かに刺激するものがあった。その言葉を以
 前、耳にした覚えがあった。私は細い糸をたぐり寄せるように、その記憶の痕跡を辿った。どこ
 かの小説だか戯曲だかで、その言葉を目にしたことがあるはずだ。それもよく知られた有名な作
 品である。どこかで……。



  それから私ははっと思い出した。モーツァルトのオペラ『ドン・ジョバンニ』だ。その冒頭に
 たしか「騎士団長殺し」のシーンがあったはずだ。私は居間のレコード棚の前に行って、そこに
 ある『ドン・ジョバンニ』のボックス・セットを取り出し、解説書に目を通した。そして冒頭の
 シーンで殺害されるのがやはり「騎士団長」であることを確認した。役には名前はない。ただ
 「騎士団長」と記されているだけだ。

  オペラの台本はイタリア語で書かれており、そこで最初に殺される老人は「コメンダトーレ
 (Ⅱ Commendatore)と記されていた。それを誰かが「騎士団長」と日本語に訳し、その訳語が
 定着したのだ。現実の「コメンダトーレ」が正確にどのような地位なのか役職なのか私にはわか
 らない。いくつかあるボックス・セットのどの解説書にも、それについての説明は記されていな
 かった。このオペラにおける役は、名前を持たないただの「騎士団長」であり、その主要な役目
 は、冒頭にドン・ジョバンニの于にかかって刺し段されることだ。そして最後に歩く不吉な彫像
 となってドン・ジョバンニの前に現れ、彼を地獄に連れて行くことだ。

  考えてみれば、わかりきったことじやないか、と私は思った。この絵の中に描かれている顔立
 ちの良い若者は、放蕩者ドン・ジョバンニ(スペイン語でいえばドン・ファン)だし、殺される
 年長の男は名誉ある騎士団長だ。若い女は騎士団長の美しい娘、ドンナ・アンナであり、召使い
 はドン・ジョバンニに仕えるレボレロだ。彼が手にしているのは、主人ドン・ジョバンニがこれ
 までに征服した女たちの名前を逐一記録した、長大なカタログだ。ドン・ジョバンニはドンナ・
 アンナを力尽くで誘惑し、それを見とがめた父親の騎士団長と果たし合いになり、刺し殺してし
 まう。有名なシーンだ。どうしてそのことに気がつかなかったのだろう?

  おそらくモーツァルトのオペラと、飛鳥時代を扱った日本画という組み合わせが、あまりにか
 け離れすぎていたからだろう。だから私の中でその二つがうまく結びつかなかったのだ。しかし
 いったんわかってしまえば、すべては明らかだった。雨田典彦はモーツァルトのオペラの世界を
 そのまま飛鳥時代に「翻案」したのだ。たしかに興味深い試みだ。それは認める。しかしその翻
 案の必然性はいったいどこにあるのだろう? それは彼の普段の画調とはあまりに違いすぎてい
 る。そしてなぜ彼は、その絵をわざわざ厳重に梱包して屋根裏に隠匿しなくてはならなかったの
 だろう?

  そしてその画面の左端の、地中から首を出す細長い顔をした人物の存在はいったい何を意味し
 ているのだろう? モーツァルトのオペラ『ドン・ジョバンニ』にはもちろんそんな人物は登場
 しない。雨田典彦が何らかの意図をもって、その人物をそのシーンに描き加えたのだ。そしてま
 たオペラの中では、父親が刺し殺される現場をドンナ・アンナは実際には目撃していない。彼女
 は恋人の騎士ドン・オッタービオに助けを求めにいった。そして二人で現場仁戻ってきたときに、
 既にこときれている父親を発見するのだ。雨田典彦の絵ではその状況設定が――おそらく劇的な
 効果をあげるためだろう――微妙に変更されている。しかし地中から顔を出しているのは、どう
 見てもドン・オッタービオではない。その男の相貌は明らかに、この世の基準からははずれた異
 形のものだ。ドンナ・アンナを肋ける白面の正義の騎士ではあり得ない。

  その男は地獄からやってきた悪鬼なのだろうか? 最後にドン・ジョバンニを地獄に連れて行
 く偵察をするために、前もってここに姿を見せたのだろうか? でもどう見ても、その男は悪鬼
 や悪魔には見えなかった。悪鬼はこれほど奇妙な輝きを持つ目を持ってはいない。悪魔は正方形
 の木製の蓋をこっそり持ち上げ、地上に顔をのぞかせたりはしない。その人物はむしろある種の
 トリックスターとして、そこに介在しているように見える。私は仮にその男を「顔なが」と名付
 けた。

  それから数週間、私はその絵をただ黙って眺めていた。その繰を前にしていると、自分の繰を
 描こうという気持ちはまったく起きなかった。まともな食事をとる気にもなれなかった。冷蔵庫
 を開けて目についた野菜にマヨネーズをつけて啜るか、あるいは買い置きの缶詰を開けて鍋で温
 めるか、せいぜいそんなところだ。私はスタジオの床に座り、『ドン・ジョバンニ』のレコード
 を繰り返し聴きながら、『騎士団長殺し』を飽きることなく見つめた。日が暮れるとその前でワ
 インのグラスを傾けた。

  見事な出来の絵だ、と私は思った。しかし私か知る限り、この絵は雨田具彦のどの画集にも収
 録されていない。つまりこの作品の存在は世間一般には知られていないということになる。もし
 公開されていれば、この作品は間違いなく雨田典彦の代表作のひとつになっているはずだから。
 いつか彼の回顧展が開かれるなら、ポスターに使われてもおかしくない作品だ。そしてこれはた
 だ「見事に描けている」というだけの絵ではない。この繰の中には明らかに、普通ではない種類
 の力が座っている。それは少しなりとも美術に心得のある人なら見逃しようがない事実だ。見る
 人の心の深い部分に訴え、その想像力をどこか別の場所に誘うような示唆的な何かがそこには込
 められている。

  そして私はその画面の左端にいる型だらけの「顔なが」から、どうしても目が離せなくなった。
 まるで彼が蓋を開けて、私を個人的に地下の世界に誘っているような気がしたからだ。他の誰で
 もなく、この私をだ。実際のところ、その蓋の下にどのような世界かおるのか、私は気になって
 ならなかった。彼はいったいどこからやってきたのだろう? そこでいったい何をしているのだ
 ろう? その蓋はやがてまた閉められるのだろうか、それとも開きっぱなしになるのだろうか?


  
  私はその絵を眺めながら、歌劇『ドン・ジョバンニ』のその場面を繰り返し聴いた。序曲に繰
 く、第一幕・第三場。そしてそこで歌われる歌詞、口にされる台詞をほとんどそのまま覚えてし
 まった。

  ドンナ・アンナ
 「ああ、あの人殺しが、私のお父様を殺したのよ。
  この血……、この傷……、
  顔は既に死の色を浮かべ、
  息もこときれ、
  手足も冷たい
  お父様、優しいお父様!
  気が遠くなり、
  このまま死んでしまいそう」


さて、さて、幽翠なる春樹ワールドに踏み入れ、もう後戻りできぬようになった。次章「今のところ
は顔のない依頼人」に移る。

                                     この項つづく


 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2435

Trending Articles