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デジタル革命からの依頼人

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      62  低姿勢  /  雷山小過(らいさんしょうか)     

                                   

       ※ 小過(しょうか)とは、小なる者が多すぎること、またすこし過ぎる
        こと。大過(28)と対になる卦である。小とは陰のこと、陰爻(い
        んこう)が陽爻(ようこう)に比べて多すぎる、つまり小粒な人間が
        はばを効かせている状態をさし、卦の形は上下背き合い、二爻ずつま
        とめれば、坎(かん:危難)となる。分裂や食い違いよって困難に直
        面している時期にあたる。こんな時は無理に大問題に取り組もうとせ
        ず、日常の事務をテキパキ片づけることが大切である。消極的過ぎる
        という非難に対し、低姿勢で事に当たるなら大吉。

 

【RE100倶楽部:風力最前線編】

● 回転電機または風力発電システムの特許事例


【要約】

回転子6は、回転軸方向に配置される複数の回転子パケット14と、回転子パケット14に配置され、
かつ一極毎に複数の永久磁石挿入孔4内に配置される複数の永久磁石5と、永久磁石挿入孔4に対し
て永久磁石5の内径側で繋がった第1の非磁性部4bと、回転軸方向に隣接する回転子パケット14
間に配置されるダクトピース15a、15bを備え、ダクトピースは、第1の非磁性部4bよりも内
径側の位置から更に内径側へ伸びて配置され、及び/または、第1の非磁性部4bよりも外径側の位
置から更に外径側へ伸びて配置されることを特徴とする、冷却性能向上と電気的特性向上を図ること
ができる回転電機または風力発電システムの提供。

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先日記載したように「再エネ」(自然エネルギー)事業の各領域(プラットフォーム)の掌握を済ま
せたが、関連する最新技術は【最前線編】として折々に取り上げてみることに。今回は第一弾という
のも編だけれど「オール風力発電システム」から、日立製作所の特許事例ををピックアップ。

風力を利用した風力発電システムでは、単機容量増加、ナセルの軽量化のため、大容量永久磁石式回
転電機が用いられ始められているが、大容量の永久磁石式発電機では、大きな損失が発生し、安易に
小型化すると損失密度の増加に伴う機内温度の上昇が問題になる。特に永久磁石は温度が高くなるほ
ど磁束密度が低下し、規定値を超えると低下した磁束密度が戻らなくなる不可弱減磁が発生、回転子
の交換等メンテナンスが必要となる。発熱密度の高い永久磁石式回転電機を用いるには、冷却機能の
強化が必要となり、回転電機にラジアルダクトを設ける方法が考案されている(下図参照)。

 Jun. 12, 2014

ここで、例えば特許文献1特許文献2に記載されたものがある。特許文献1には、複数の鉄心ブロ
ックを備えた回転子鉄心と、このような複数の鉄心ブロックの相互間に配置され、円板状のダクト板
及びダクト板上に放射状に配置された複数のダクトピースを備えたダクト部材と、鉄心ブロックに埋
め込まれた複数の永久磁石と、このダクト板に形成され、永久磁石を挿通可能な複数の貫通孔と、を
有することを特徴とする回転電機の回転子をもつ永久磁石式回転電機が示されている。

径方向へ冷却風が抜ける経路を形成するダクトピースを設けることは有効であり、これにより冷却性
向上する。一方、電気的特性は、特許文献1では、永久磁石の内径側に非磁性部がなく、内径側への
漏れ磁束の低減の配慮がない。また、特許文献2では、永久磁石の内径側に空隙部を設けてはいるも
のの、この空隙部間を径方向に貫いてダクトピースを設け、ダクトピースが漏れ磁束の経路になる可
能性もあるとし、この事例では、冷却性能/電気的特性の向上できる回転電機または風力発電システ
ムが提案される。

この課題を解決に、回転軸と、軸の周りの回転子と、回転子に対して所定のギャップを介して対向配
置される固定子コアに設けられた複数のスロット内のコイルに施された固定子を備えた回転電機であ
る。この回転子は、回転軸方向に配置される複数の回転子パケットと、回転子パケットに配置され、
かつ一極毎に複数の永久磁石挿入孔内に配置された複数の永久磁石と、この永久磁石挿入孔に対し、
永久磁石の内径側で繋がった第1の非磁性部と、回転軸方向に隣接する回転子パケット間に配置され
たダクトピースを備え、このダクトピースは、第1の非磁性部よりも内径側の位置から更に内径側へ
伸びて配置され、及び/または、この第1の非磁性部よりも外径側の位置から更に外径側へ伸び配置
されている。また、この風力発電システムは、風を受けて回転するロータと、ロータを回転可能に支
持するナセルと、ナセルを回転可能に支持するタワーと、ロータの回転力を用いて発電する発電機を
備え、発電機が、この回転電機であることで、冷却性能/電気的特性の向上できる回転電機/風力発
電システムである(詳細は上記の特許説明図をダブクリ参照)。 

 

    
読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    

 

    6.今のところは顔のない依頼人です

  エージェントから電話がかかってきたのは、夏もそろそろ終わりを迎えた頃だった。誰かから
 電話がかかってくるのは久しぶりのことだ。昼間にはまだ夏の暑さが残っていたが、日が暮れる
 と山の中の空気は冷え込んだ。あれはどうるさかった蝉の声がだんだん小さくなり、そのかわり
 に虫たちが盛大な合唱を繰り広げるようになった。都会に暮らしているときとは遠って、私を取
 り囲む自然の中で、推移する季節はその取り分を遠慮なく切り取っていった。
  我々はまず最初に、それぞれの近況の報告をしあった。とはいっても、話るべきことはたいし
 てない。



 「ところで、画作の方はうまく捗(はかど)ってますか?」
 「少しずつね」と私は言った。もちろん嘘だ。この家に移ってきて四ケ月あまり、用意したキャ
 ンバスはまだ真っ白なままだ。
 「それはよかった」と彼は言った。「そのうちに作品を少し見せて下さい。何かお手伝いできる
 ことがあるかもしれませんから」
 「ありがとう。そのうちに」

  それから彼は用件を切り出した。「ひとつお願いがあって電話を差し上げました。どうでしょ
 う? 一度だけ、肖像画をまた描いてみる気はありませんか?」

 「肖像画の仕事はもうしないって言ったはずですよ」
 「ええ、それはたしかにうかがいました。でもこの話は報酬が法外にいいんです」
 「法外に良い?」
 「飛び抜けて素晴らしいんです」
 「どれくらい飛び抜けているんだろう?」

  彼は具体的に数字をあげた。私は思わず口笛を吹きそうになった。でももちろん吹かなかった。

 「世の中には、ぼくのほかにも肖像画を専門に描く人はたくさんいるはずだけど」と私は冷静な
 声で言った。
 「それほどたくさんではないけれど、そこそこ腕の立つ肖像専門の両家は、あなたのほかにも何
 人かいます」
 「じやあ、そちらに話を持っていけばいい。その金額なら、誰だって二つ返事で引き受けるでし
 ょう」
 「先方はあなたを指名しているんです。あなたが描くということが先方の条件になっています。
 他の人では駄目だと」

  私は受話器を右手から左手に持ち替え、右手で耳の後ろを掻いた。
  相手は言った。「その人はあなたの描いた肖像画を何点か目にして、とても気に入ったそうで
 す。あなたの絵の持つ生命力が、ほかでは求めがたいということで」
 「でもわからないな。だいいちぼくがこれまで描いた肖像画を、一般の人が何点か目にするなん
 て、そんなことが可能なんでしょうか? 画廊で毎年個展を開いているわけでもあるまいし」
 「細かい事情までは知りません」と彼は少し困ったような声で言った。「私はクライアントから
 言われたとおりのことをお伝えしているだけです。あなたはもう肖像画を描く仕事とは手を切っ
 ていると、最初に先方に言いました。決心は堅そうだから、額んでもまず駄目でしょうと。でも
 先方はあきらめませんでした。そこでこの具体的な金額が出てきたわけです」

 Banana Republic

  私は電話口でその提案について考えてみた。正直なところ、提示された金額には心をひかれた。
 また私の描いた作品に――たとえ賃仕事として半ば機械的にこなしたものであれ――それだけの
 価値を見出す人がいるということに、少なからず自尊心をくすぐられもした。しかし私はもう二
 度と営業用の肖像画は描くまいと自らに誓った。妻に去られたことを契機として、もう一度人生
 の新しいスタートを切るうという気持ちになったのだ。まとまった金を目の前に積まれただけで 
 簡単に決心を覆すことはできない。

 「しかしそのクライアントは、どうしてそれほど気前がいいのでしょう?」と私は尋ねてみた。
 「こんな不景気な世の中ですが、その一方でお金が余っている人もちやんといるんです。インタ
 ーネットの株取り引きで儲けたか、あるいはIT関係の起業家か、そんな関係の人であることが
 多いようです。肖像画の制作なら経費で落とすことができますしね」
 「経費で落とす?」
 「帳簿上では肖像画は美術品ではなく、業務用の備品扱いにできますから」
 「それを間くと心が温まる」と私は言った。



  インターネットの株取り引きで儲けた人間や、IT関係のアントレプレナーたちが、いくら金
 が余っているにせよ、たとえ経費で落とせるにせよ、自分の肖像画を描かせて備品としてオフィ
 スの壁に掛けたがるとは私には思えなかった。その多くは洗いざらしのジーンズとナイキのスニ
 ーカー、くたびれたTシャツにバナナ・リパブリックのジャケットという格好で仕事をし、スタ
 ーバックスのコーヒーを紙コップで飲むことを誇りとするような若い連中だ。重厚な油絵の肖像
 画は彼らのライフスタイルには似合わない。でも世の中にはもちろんいろんなタイプの人開かい
 る。一概にこうと決めつけることはできない。スターバックス(だかどこか)のコーヒー(もち
 ろんフェア・トレードのコーヒー豆を使用したもの)を紙コップで飲んでいるところを描いては
 しがる人間だっていないとは限らない。

 「ただし、ひとつだけ条件があります」と彼は言った。「そのクライアントを実際のモデルにし
 て、対面して描いてもらいたいというのが先方の要望です。そのための時間は用意するからと」
 「でも、ぼくはだいたいそういう描き方はしませんよ」
 「知っています。クライアントと個人的に面談はするけれど、実際の両性のモデルとしては使わ
 ない。それがあなたのやり方です。そのことは先方にも伝えました。そうかもしれないが、でも
 今回はしっかり本人を目の前にして描いてほしい。それが先方の条件になります」
 「その意味するところは?」
 「私にはわかりません」
 「ずいぶん不思議な依頼ですね。なぜそんなことにこだわるんだろう? モデルをつとめなくて
 もいいなら、むしろありかたいはずなのに」
 「一風変わった依頼です。しかし報酬に関しては申し分ないように思いますが」
 「報酬に関しては申し分ないとぼくも思います」と私は同意した。
 「あとはあなた次第です。なにも魂を売ってくれと言われているわけじゃない。あなたは肖像画
 家としてとても腕がいいし、その腕が見込まれているんです」
 「なんだか引退したマフィアのヒットマンみたいだな」と私は言った。「最後にあと一人だけタ
 ーゲットを倒してくれ、みたいな」
 「でもなにも血が流されるわけじゃない。どうです、やってみませんか?」

  血が流されるわけじゃない、と私は頭の中で繰り返した。そして『騎士団長殺し』の画面を思
 い浮かべた。

 「それで描く相手はどんな人なんですか?」と私は尋ねた。
 「実を言うと、私も知りません」
 「男か女か、それもわからない?」
 「わかりません。性別も年齢も名前も、何も聞いていません。今のところは純粋に頼のない依頼
 人です。代理人と名乗る弁護士がうちに電話をかけてきて、その人とやりとりしただけです」
 「でもまともな話なんですね?」
 「ええ、決してあやしい話じゃありません。相手はしっかりした弁護士事務所でしたし、話がま
 とまれば着手金をすぐに振り込むということでした」

  私は受話器を握ったままため息をついた。「急な話なので、すぐには返事ができそうにない。
 少し考える時間がはしいんですが」
 「いいですよ。得心がいくまで考えてみてください。とくに差し迫った話ではないと先方は言っ
 ています」

  私は礼を言って電話を切った。そして他にやることも思いつかなかったので、スタジオに行っ
 て明かりをつけ、床に座って『騎士団長殺し』の絵をあてもなく見つめた。そのうちに小腹が減
 ってきたので、台所に行って、トマトケチャップと皿に盛ったリッツ・クラッカーを持って戻っ
 てきた。そしてクラッカーにケチャップをつけて食べ、また絵を眺めた。そんなものはもちろん
 美味くもなんともない。どちらかといえばひどい味がする。しかし美味くても美味くなくても、
 そのときの私にとっては些細なことだった。空腹が少しでも満たされればそれでかまわない。

  その絵は全体としてまた細部として、私の心をそれほど強く惹きつけていた。ほとんどその絵
 の中に囚われてしまったといってもいいくらいだった。数週間かけてその絵を眺め尽くしたあと
 で、私は今度は近くに寄って、ひとつひとつのディテールをとりあげ、細かく検証してみた。と
 くに私の関心を惹きつけたのは、五人の人物たちが顔に浮かべている表情だった。私はその絵の
 中の一人ひとりの表情を鉛筆で精密にスケッチした。騎士団長から、ドン・ジョバンニからドン
 ナ・アンナからレポレロから、「顔なが」に至るまで。読書室が本の中の気に入った文章を、ノ
 ートに一字一句違わずに丁寧に書き写すように。

  日本画に描かれた人物を自分の筆致でデッサンするのは、私にとって初めての体験だったが、
 やり始めてすぐにそれが予想していたより遥かにむずかしい試みであることがわかった。日本画
 はもともと線が中心になっている絵画だし、その表現法は立体性より平面性に傾いている。そこ
 ではリアリティーよりも象徴性や記号性が重視される。そのような視線で描かれた画面を、その
 ままいわゆる「洋画」の語法に移し替えるのは本来的に無理かおる。それでも何度かの試行錯誤
 の来に、それなりにうまくこなせるようになった。そのような作業には「換骨奪胎」とまではい
 かずとも、自分なりに画面を解釈し「翻訳」することが必要とされるし、そのためには原画の中
 にある意図をまず把握しなくてはならない。言い換えるなら、私は――あくまで多かれ少なかれ
 ではあるけれど――雨田典彦という画家の視点を、あるいは人間のあり方を理解しなくてはなら
 ない。比喩的に言うなら、彼の履いている靴に自分の足を入れてみる必要がある。

  そのような作業をしばらく続けたあとでふと、「久しぶりに肖像画を描いてみるのも悪くない
 かもな」と私は考えるようになった。どうせ何も描けないでいるのだ。何を描けばいいのか、自
 分か何を描きたいと思っているのか、そのヒントさえつかめないでいる。たとえ意に染まない仕
 事であれ、実際に手を動かして何かを描いてみるのも悪くないかもしれない。何ひとつ生み出せ
 ない日々をこのまま続けていたら、本当に何も描けなくなってしまうかもしれない。肖像画すら
 描けなくなってしまうかもしれない。もちろん提示された報酬の金額にも心を惹かれた。今のと
 ころこうしてほとんど生活費のかからない生活を送っているが、絵画教室の収入だけではとても
 生活はまかなえない。長い旅行もしたし中古のカローラ・ワゴンも買ったし、蓄えは少しずつで
 はあるが間違いなく減り続けている。まとまった額の収入はもちろん大きな魅力だった。

  私はエージェントに電話をかけ、今回に限って仕事を引き受けてもいいと言った。彼はもちろ
 ん喜んだ。

 「しかしクライアントと対面して、実物を前に描くとなると、ぼくがそこまで出向かなくちやな
 らないことになります」と私は言った。
 「そのご心配は無用です。先方があなたの小田原のお宅に伺うということでした」
 「小田原の?」
 「そうです」
 「その人はぼくの家を知っているのですか?」
 「お宅の近隣にお住まいだということです。雨田典彦さんのお宅に住んでおられることもご存じ
 でした」

  私は一瞬言葉を失った。それから言った。「不思議ですね。ぼくがここに住んでいることはほ
 とんど誰も知らないはずなんだけど。とくに雨田典彦の家であることは」

 「私ももちろん知りませんでした」とエージェントは言った。
 「じやあ、どうしてその人は知っているのだろう?」
 「さあ、そこまで私にはわかりません。しかしインターネットを使えばなんだってわかってしま
 う世界です。手慣れた人の手にかかれば、個人的な秘密なんて存在しないも同然かもしれません
 よ」
 「その人がうちの近くに住んでいたというのはたまたまの巡り合わせなのかな? それとも近く
 に住んでいるからというのも、先方がぼくを選んだ理由のひとつになっているんでしょうか?」
 「そこまではわかりません。先方と顔を合わせてお話しになるときに、知りたいことがあればご
 自分で訊いてみてください」

  そうすると私は言った。

 「それでいつから仕事にとりかかれますか?」
 「いつでも」と私は言った。
 「それでは先方にそのように返事をして、あとのことはあらためて連絡をします」とエージェン
 トは言った。

  受話器を置いてから、私はテラスのデッキチェアに横になって、その成り行きについて考えを
 巡らせた。考えれば考えるほど疑問の数が増えていった。私がこの家に住んでいることをその依
 頼人が知っていたという事実が、まず気に入らなかった。まるで自分が誰かにずっと見張られ、
 一挙一動を観察されていたような気がした。しかしどこの誰が、いったい何のために、私という
 人間にそれほどの関心を抱くのだろう? そしてまた金体的にいささか話がうますぎるという印
 象がある。私の描く肖像画はたしかに評判はよかった。私自身もそれなりの自信を持っている。
 とはいえそれは所詮どこにでもある肖像画だ。どのような見地から見てもそれを「芸術品」と呼
 ぶことはできない。そして私は世間的に見ればまったく無名の画家だ。いくら私の絵をいくつか
 目にして個人的に気に入ったにせよ(私としてはそんな話を額面通り受け取る気にはなれなかっ
 たが)、そこまで気前よく報酬をはずむものだろうか?

  ひょっとしてその依頼主は、私が現在関係を持っている女性の夫ではあるまいか? そんな考
 えがふと私の脳裏をよぎった。具体的な根拠はないのだが、考えれば考えるほどそういう可能性
 もなくはないように思えてきた。私に個人的に興味を持つ匿名の近所の人間となると、それくら
 いしか思いつけない。でもどうして彼女の夫が、大金を払ってわざわざ妻の浮気相手に自分の肖
 像画を描かせなくてはならないのだろう? 話の筋が通らない。相手がよほど変質的な考え方を
 する人間でない限りは。

 デジタル革命からの依頼人

  まあいい、と私は最後に思った。目の前にそういう流れがあるのなら、いったん流されてみれ
 ばいい。相手に何か隠された目論見かおるのなら、その目論見にはまってみればいいじやないか。
 動きがとれないまま、こうして山の中で立ち往生しているよりは、その方がよほど気が利いてい
 るかもしれない。そしてまた私には好奇心もあった。私かこれから相手にしようとしているのは、
 いったいどのような人物なのだろう? その相手は多額の報酬を積む見返りとして、私に何を求
 めているのだろう? その何かを見届けてみたいと私は思った。

  そう心を決めてしまうと、気持ちは少し楽になった。その夜は、久しぶりに何も考えずにまっ
 すぐ深い眠りに入ることができた。夜中にみみずくの動き回るがさがさという音を間いたような
 気がした。しかしそれは切れ切れな夢の中の出来事だったかもしれない。


このように依頼人とのかなり細かな電話での描写がつづき、次章の「良くも悪くも覚えやすい名前」
に移る。眼精疲労がひどいが、ここは、先回りせず何とか丹念に?読み続けよう。

                                      この項つづく

 


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